aya-kobayashi-manita 's 翻訳 Try It !

『くまのプーさん』展と、映画『プーと大人になった僕』

*大変恥ずかしいのですが、『くまのプーさん』の絵は、オリジナルはE・H・シェパード氏によるものでした。文章はA・A・ミルン氏。以下のエッセイでは、絵・文章共にA・A・ミルン氏によるものとして、記述してしまっています。大変申し訳ございません。



 東京、渋谷の東急Bunkamuraミュージアムで開催中の『くまのプーさん展』と、特別同時開催中の映画『プーと大人になった僕』を観て来ました!


 もう何度も目にしてるよー、わざわざどうしようかな、そうは思ってもやはり結局は、癒しと童心を求め・・・そんな気分でしょうか。足を運んでみたら、平日の昼間にも関わらずの大混雑ぶりでびっくりしました!学生さんらしい若者達から、往年のイギリス児童文学ファンのようなご年配の方達まで、皆さん、作品は大体モノクロのラフで些細なスケッチばかりが並んでいるのに、その前でしばし動かずじーっとじっくり見つめている。そして時には撮影OKポイントで携帯をパシャ、パシャ。(プー棒投げ橋が簡易的だが再現されていたり、展覧会フラッグが天井からデコレーションされていたり、と、一部開けたスペースがあります。)

 私も皆さんにもれず・・・

 一度行って目にしてしまえば、どうしたって、ああ可愛い、愛おしい、あのモテッとしたプーさんのお尻!なんだなんだこの愛すべき体形と呑気さは!舞台はイギリスのロンドン郊外、ハートフィールド地域に佇む静かな森林。作家A.A.ミルン氏は、本当に愛情深い眼差しで、愛息子が穏やかな自然に溶け込みまどろむ、ほんの一瞬のいつもと変わらぬ風景を捕えては、ささっと筆を走らせ、ああ、それはきっと、なんて素敵で幸せなひと時だったのだろうと、想いはあっという間に、当時のイギリス児童文学作家のその目と同化してしまうような・・・空想は渋谷を飛び出し、日本を越えてしまう・・・そこに、くまのプーや、トラのティガー、ブタのピグレット、フクロウのオウル、ウサギのラビット、カンガルー親子のカンガとルー、ロバのイーヨー、と、次から次へと登場する架空の名優たち?盟友たち?(しかも皆、本物の動物ではなくぷよぷよふわふわで思わずぎゅっと抱っこしたくなるぬいぐるみ!そして見事にバラバラで豊かな個性の集まり!)このワンセットは言わずもがな、今や永遠の定番、永遠の愛されキャラクター達!

 これこそ、ファンタジーやメルヘンの醍醐味の様に思える。他のイギリス児童文学でも、『ナルニア国物語』や『不思議の国のアリス』なども同様に、お話しは、主人公のなんら変哲ないいつもと変わらぬ日常風景から始まる。ふと、異次元への入り口を見つけ、探検や好奇心への憧れ膨らむ子供心でどんどんと彷徨いこんでゆく・・・その先で子供達が見つける宝物は、永遠に色あせない一生のギフト。大人にはもう不可能な、子供時代にしか経験できない虹色の冒険なのだろう。

 作家は勿論、「大人」な訳だが、だから無論、おとぎ話しは自分の体験談から来るというものでもないと思う。大人になったからこそ向けられる周りの子供達への愛情が、自然と、この世にない空想キャラクターとストーリーの誕生へと結びつくのだろうか。その観察力が非常にデリケートでピュアで羨ましい。子供へのプレゼントとして、この上ない程の、幸せで無垢で気まぐれなお話し。きっかけは、大人として子供に喜んでもらいたい一心かもしれないが、永遠に閉じ込めてしまいたいと願ってしまう子供の光景の瞬間を大事にし、パアッと一気に夢広がり、自分まで今一度、子供時代に戻ったかのように、その子と一緒になって再び旅を始める。子供が実際に見て知っている世界はとても狭い。だが、その小さな頭の中に広がる世界は、とても広くて大きい。この広大な地球上のどこの世界に行ってもあるはずがない物まで、自由自在に思い描き始め、それはその子だけが所有する現実となる。大人では成せない、子供のみの特権だ。制限などなく思い切り羽を伸ばして空想の世界で遊ぶ事。汚れを知らない綺麗な瞳の奥に隠れて広がる、純粋なだけに本物の創造世界。児童文学者とは、まるでその様な子供の世界を垣間見て、表現として現実に目に見える作品にしているようで、そのエネルギーと技術力は焦がれてしまう。

  改めてファンタジーって素晴らしいと思えるのはその点である。何かを批判したり問い質したり、疑問をぶつけたり破壊する為の芸術ではなく、素直に、この世に無いものを産み出す芸術。正に、真っさらな中に作り出される、人間の空想力の産物。なんて前向きで健やかな作業なのだろう。最初は絵本などイメージが添えられて説明され、自我の芽生えと共に文学作品に移ると、挿入画も少なくなるが、行間を読む事によって次第に、受動的に与えれてきたイメージを個々人で想像し始め、能動的に、自由で個性的なファンタジーワールドを広げてゆく。その子の世界がとどまることなく溢れこぼれ出すのだ。作品は、それが害あるネガティブな妄想とならないよう、幸せの道しるべとなるよう、願いを託す。

 そのような子供時代がそっと秘密の心の奥にしまわれるように、子供は成長して、教育を受け、様々な知識や知恵を身に付け、大人として社会的責任を負うようになり、その内に今度は自分がまた新たな時代に、新たな子供達を守り、育て、共同体の責務を任されるようになってゆく。そうやって、人間社会は繰り返されてゆく。

 生活の中で、勿論、行間を読むなど余裕のある時間も思考も無くなってゆく事も多いだろう。生きるため、生活のため、家族のため、愛するもののため、守るべき主義のため・・・戦いを余儀なくされ、心をすり減らし、摩擦や衝突が蔓延するなか、それでも、一歩一歩進まなければならない時だってあるだろう。大抵は、その様な環境の方が増え、抗う事も忘れて行ってしまう程だろう。

 しかし、『くまのプーさん』のその後、を描いている映画『プーと大人になった僕』の中では、クリストファーロビンがそうだったように、私達はどんなに厳しい仕事の現場に立たされしわばかりが刻みこまれようと、どんなに戦争などの理不尽な生き残りを体験しようと、どんなにストレスで思わぬ言動に走ろうと、要するにどんな大人になろうと、幾つになっても、目の前に突然プーさんが現れたならば、思わず「プー?」と口に出てしまうのだと思う。そして、大人の立場で、どんなにプーさんがどん臭く、どんなに足手まといに見えようとも、プーさんを肌身離さず守り、語り掛けてしまうのだと思う。更には、クリストファーロビンの娘や妻も、そのあり得ない奇想天外な、喋る動物のぬいぐるみ達をすんなりと理解し、大都会ロンドンの街行く人々も、ひとたび目にすれば振り回されつつ受け入れてしまう。あたかも、いつでも「100エーカーの森」に帰っておいでと温かく導かれるように、振り向けば童話『くまのプーさん』はそこに居てくれるのに似ている。人間は変化しても、童話は永遠に変わらず居てくれるのだ。

 だから、今回の展覧会のような場に久しぶりに足を運ぶと、大人は、それぞれに様々な思い出がよぎり、人生の寄り道を行ったり来たりして、最終的にはほっこりとした愛情を胸に、また、自分の現実を過ごす事が出来るのだろうか。

 だから、それこそが、この、くまのプーさんが永遠に愛され、時代も国境も越えて語り継がれ、なぜだかわからないがどこかで必ず目にしたことのある、皆が知っている、そのような定番となり、親から子へと、生活と共に必ずお隣に置かれて、紡がれてゆくのだろうか。

 自己主張なく、嫌になるくらい何もせず、呆れてしまうほどはちみつが大好きで、だけど、プーさんは、絶対にそばにいてくれる。人間に寄り添ってくれる。その優しさ。「おつむは小さい」が、私達を助けてくれようとする大きな勇気と、決して変わらない友情を約束してくれる大きな心がある。プーさんがいるから、私達は元気が出る。自信が持てる。笑って暮らせる。

 スターでもアイドルでもヒーローでもなんでもない。なんでもない。でもプーさんを忘れられない。「100歳になっても、僕の事を覚えてくれている?」クリストファーロビンは、ふとそんな事をプーさんに尋ねるが、少なくとも、クリストファーロビンは、プーさんを忘れていなかった。同様に、私達も、きっとプーさんを忘れない。勿論、プーさんだって、私達の事を片時も忘れないでいてくれる。それは、さらっと簡単なようで、非常に難しいからとても嬉しい事のように思える。

 ファンタジーが、くまのプーさんが、現代、日本の都会にいる私達にも与えてくれる幸せとは、そういう事のような気がする。身分も仕事もない、でも、大好きな仲間に囲まれて優しく暮らすファンタジーのくまのプーさん。いつだって、どこにいたって、助けてほしいと困っていれば、どうにかして駆けつけてくれる永遠のお友達。そんな存在が、大人になっても、必ず心の中に眠っている。安心して生きてゆけるのは、くまのプーさんのお陰なのだ。

 そのようなキャラクターをこの世に産み出し、捧げ、残してくれたA.A.ミルン氏と、作品を育んでくれたイギリスの100エーカーの森に、感謝します。何度だって、見たいし、見る度に想いは募る、プーさんに、感謝します。

 

 

aya-kobayashi-manita 's 翻訳 Try It ! ~pupils with heart~

こんにちは。学生時代、文化史と美術史を専攻した後(ロンドン留学含む)、美術館学芸業務補助を経て、カルチャースクール勤務。現在、在宅で翻訳の勉強中。主に、①芸術事の感想(展覧会、舞台、映画、小説など)、②英語で書かれた世界各国の美術館図録や美術評論、③英語圏の絵本や児童文学、文芸作品、④英語の歌詞、⑤趣味の朗読やよみきかせ、歌、⑥日常の散歩や旅行記、生活の一コマなど・・日英語で記してゆきたいです。

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