映画『銀魂』
私の主人は時代劇好きだ。毎日『暴れん坊将軍』『大江戸捜査網』など録画しては夜な夜な楽しんでいる。お陰で私も付き合わされる、というか、傍で読書やスマホしながら、自然と耳に入ってきてしまう・・・時々は真剣になって一緒にも観る。特に『必殺仕事人』シリーズは、残忍な展開ながらも、それ以上に、やはり役者さん達の渋い演技、レンブラントやフェルメールの絵を思い起させるような絶妙な人間構図とカメラワーク、光と影の使い方、などが、非常に魅力的で見入ってしまう。ある人は、「当時の時代劇役者の目は泣いている。それがいい。」と言っていたが、なるほど頷ける気がする。今の時代劇では俳優さん達がキラキラしすぎていて、演技も往年に倣おうと頑張っている感じが強すぎるようで、どうも心の傷というような感情の機微がプライベートのエステやIT化で見えないような・・・??とは、言う方は楽であるというヤツですが・・・
でも、若い役者さん達始め、様々なジャンルの芸能人が多く時代劇にも挑戦するのは、良い事だと思う。ちなみに、必殺仕事人シリーズでも、70年代東京をメインキャラクター達が現代版「表の仕事」の格好で駆け回るというオープニングの回があり、興味深かった。(例えば藤田まことが公務員全としたスーツで、沖雅也が当時のヒッピーっぽいパンタロンジーンズで、街角に溶け込んでいるという風に。)歴史の向こうに消えてゆく過去も、現代の今も、政治的文化的背景の違いは大いにありつつも人間の営みや心理は変わらないものがある、というのがよくわかるようで、妙に感情移入したり・・・そういう点では、今の、バラエティやSNSのお陰で「すぐ隣にいそう」と親しみ持てるイメージの方達が演じる事で、内容がより鮮明に伝わる時もある。
平行するように、いわゆる伝統的もしくは民族的な文化という物も、随分大衆化が進んだように思える。例えば歌舞伎や浮世絵。これらは、元は町民文化だった筈だが、近代ではなんとなく敷居が高い小難しい芸術、のように敬遠されがちだった気がする。その地点から、例えばスーパー歌舞伎や、役者さん達の現代演劇への進出など、入り口がより幅広く開かれた。いわゆる和モダンというかネオ和風というか。私個人の場合、そういう要素は、年代的に例えば竜童組、や、一世風靡セピアくらいから記憶が始まる(懐かしい!泣!)のだが・・・だから主人のオタク的コトバンクにより、それこそ60年代の渥美清映画『喜劇急行列車』シリーズで、アングラな怪しい地下バーで当時のツイッギーヘアー風の女の子達がハッピのようなミニスカ履いて、ロック調アレンジの『ソーラン節』をノリノリでパフォーマンスしているアバンギャルドな場面を見せられた時は、やられた!と思ったものだ。なので、ご存知の方は「他にも沢山そんな和洋古今東西折衷的なアート存在するよー」と笑われるのかもしれないが、何せ戦後新人類以降生まれの私にとっては、それらは逆に新鮮でならなかった。2000年を迎える頃には、例えば東儀秀樹や我妻宏光、吉田兄弟、藤原道山・・・(個人的な趣味が色濃く反映していますね・・・笑)など、伝統と現代要素の融合は確固たる地位を不動とし、世界でも女子十二楽坊やケルティックウーマンなどしかり、他にも、クラシックとテクノの融合、神社仏閣と現代アートやテクノロジーの融合、等々、垣根を越えた試みが続々と普及、今ではほぼ当たり前のジャンルとなった。
さて、それで、ようやく、本題の映画『銀魂』なのだが、面白かった。大爆笑が次から次へと止まらなかった。俳優さん達の、思い切りの良い活き活きとした演技からも目が離せなかった。学生演劇のノリでここまできてしまったなというような(すみません・・・)勢いやイタズラ心も、個人的に大好き。ストーリーは、江戸時代末期、「天人(あまんど)」と呼ばれる宇宙人の襲来を受け、10数年にも及ぶ戦いを余儀なくされた結果、事実上、天人の支配下に置かれた侍達の生活をコミカルに時にシリアスに描く、原作者曰く『SF人情なんちゃって時代劇コメディー』で、街並みや装いのベースはある程度江戸時代風なのだが、あとはカラーリングも家電製品もパフェもなんでもあり!の架空設定である。役名も新選組など実在する歴史上人物たちの名前がもじられていたり、突然と方々の名作パロディーが挿入されたり、常識もナンセンスもごちゃまぜ。原作は読んだ事ないのですが(再びすみません・・・)、でも、余計に小栗旬や菅田将暉、橋本環奈といった今後が期待される俳優さん達が皆、輝いて見えた。それぞれのキャラクターの個性役割をきっちりと守り果たしていて、ワイワイガヤガヤ群像劇としても達者だなあと、感心してしまった。歌舞伎の中村勘九郎(一番可笑しすぎる!!)やアイドルの堂本剛も、それこそボーダーレスな実力爆発で、ニヤニヤしてしまう。女優陣も可愛さ全開のまま、ワイルドで下品な演技を惜しみなく楽しんでいる?ようで、逆に憧れてしまう。そこに佐藤二郎のような裏切らない底力が脇を固め、層の厚さに心底楽しめた。そして、勿論、主役の小栗旬は、一見いい加減だが人情深く、内には真の侍魂を忘れずに秘めたアウトロー、という役どころで、侍の命であり堅気な刀職人の血を吐くような呪いが打ち込まれた、とある刀の魔力と闘うという重厚になりそうなストーリーをあくまでギャグ混じりで軽やかなものにしていた。
東京の近未来や、戦後の過度な高度急成長に警鐘を鳴らすSF作ならば、『AKIRA』や『BASARA』のようにあまた発表されてきた。又、現代の役者さん達が往年の作品に習って演じる時代劇も、先に述べたように続々とあるが、このように、CGも駆使され、これからが楽しみになる程自由でハチャメチャで、それでいて地に足の着いたSF時代劇というのも面白い。シリアスで神経質な役より、笑いを取る演技の方が逆に難しいと聞いた事もある。今回はたまたまTVで観たので書かせてもらったというだけで申し訳ないのだが、監督も、『HK 変態仮面』や『今日から俺は!!』の福田雄一さんという事で、深夜もゴールデンも正統派もB級も斬新にミックスさせ、かつ一流の俳優の卵を発掘、調理してしまいそうで、注目したいです。(美術史を勉強した以上、一応アカデミック風に論じてみたくて、こうやってつたない経験を総出動させ頑張っているのを笑い飛ばされそうですが・・・)
20年前、イチローがメジャーで活躍し始めた頃、映画誌『スクリーン』の編集後記で、「映画界のイチローの登場はいつになるか」とあったのを留学先のロンドンで読み、私は今でも忘れられない。20年経ち、いやいや、先に書いたようなとうの昔からの挑戦から積み重なる事ほぼ半世紀経ち、役者さんも、ストーリーも、映像も、日本初でいながら堂々とワールドワイドに評価されるような作品が、徐々に増えつつありそうで、ワクワクする。同時に、私も参加したい、仲間に入っていたい、と、ウズウズしてしまう。私は何をしてきただろうか、何が出来るだろうか。東京オリンピックも来年に控え、自分の今現在の立ち位置を認めてもらえるよう、頑張りたいです。
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