aya-kobayashi-manita 's 翻訳 Try It !

いつでも夢を

 先日、電車で目の前に座ったおばあちゃま。楚々として小柄なお上品なお顔立ちに、淡いピンクのレインコートと黒字に赤い薔薇のレインブーツが目をひく。

 久しぶりにおひとりで電車に乗るような、少し緊張させて端が上がっている口角に、ちょっとドキドキ感が伝わってくるようなつぶらな目、背もたれは使わず、背を伸ばしたままちょこんと座席の前半分くらいに腰かけられている・・・その微笑は、まるで、女学校時代の初恋の男性にでも会いに行くかのような、胸が高鳴ってどうしようもない、あのワクワク感のように思えてしまうくらい。少し周囲を見渡し、それも、なんとなく愛情と好奇心で「あの女子高生はあんな会話をしているのね」「あの人はあんなお洒落に靴を履いているのね」などとキョロキョロが抑えられず、久しぶりに世間にひとりで出るおばあちゃまが微笑ましく観察しているようで、こちらにまでウキウキが届きそうな気分だった。自然と、色々なドラマを想像してしまった。

 ひょっとしたら、ただのお買い物かもしれないし、ちょっとお子さんやお孫さんに会いに行かれるだけかもしれないし、もしかしたら病院に行くだけかもしれないし・・・

 だけど、なんだかおばあちゃまの瞳の奥には、様々な若い頃の思い出が宝物のようにしまい込まれていて、キラキラとその輝いた過去たちに後押しされて今を生活されていそうで・・・人生の沢山素敵な思い出たちがぎっしりと、その華奢な胸に溢れていそうで・・・

 勿論、様々な悲しい経験や辛い過去もあったかもしれない。しかし、それらは、過去。いつの間にか時は過ぎ、過去は去り、そうして到達しているのは、それらネガティブな面を乗り越えて、微笑んでいる現在と、更に開けている未来のように・・・残っているのは、素晴らしい賛歌のようなおばあちゃまのみぞ知る思い出たちなのかもしれない・・・

 

 なんて、またまた勝手に想像が広まってしまったが、なんにしても、ああ、いつまでも心に夢があり、ワクワクドキドキ世界に視野を持てるおばあちゃまって、いいなと思った。「昔はねえ」とか、「何あの人は」とか、毒を吐きたくもなるのが当然の昨今なのに、ああして懐かしい心の思い出たちに目を細めながら、周囲を好奇心とともに眺め、まだ少女のように世間にときめいているかのような、おばあちゃま。おしろいがはたかれた頬のうっすらとした紅色は、チークか心の高揚の表れか、とにかく、最近すっぴんが多い私に、女性にとってのお化粧という、気持ちを高ぶらせてくれる秘密と贅沢感を思い出させてくれた。私は、パリコレをキャットウオークするトップモデル達の、「なんで女だからって、お化粧して笑っていなきゃならないのよ。そんなもんなくても私は私で、女として人間として最高よ!」と、しかも口を固くへの字に閉ざしたまま、キッと強烈に光らせた目線だけでメッセージを発信するかのような、あの高貴なオーラも憧れるのだが、一方で、可愛らしいお洋服と周囲の目線を意識するようなお化粧で気分を高め、意気揚々と自信を出し、街にお出かけするのもいいなと思う。そして、うふふとほくほくするのは、年齢を重ねた女性の幸せな特権に思えてきた。


 死ぬまで、ドキドキワクワク、ウキウキしていたい。「まあ、あの子はあんなお洒落するのね。」「まあ、今はこんなお店が流行っているのね。」とか。そして、心の中は、すっかり嫌な過去をちゃっかりと追い出し、自分にとってキラキラした都合の良い思い出ばかりで満たし、いよいよ幸福を堪能しながら夢を見る・・・せめてそんな心掛けを忘れない。そんなおばあちゃま、いいなと思えた電車の中の一コマでした。

aya-kobayashi-manita 's 翻訳 Try It ! ~pupils with heart~

こんにちは。学生時代、文化史と美術史を専攻した後(ロンドン留学含む)、美術館学芸業務補助を経て、カルチャースクール勤務。現在、在宅で翻訳の勉強中。主に、①芸術事の感想(展覧会、舞台、映画、小説など)、②英語で書かれた世界各国の美術館図録や美術評論、③英語圏の絵本や児童文学、文芸作品、④英語の歌詞、⑤趣味の朗読やよみきかせ、歌、⑥日常の散歩や旅行記、生活の一コマなど・・日英語で記してゆきたいです。

0コメント

  • 1000 / 1000